パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)
大正から昭和初頭にかけての浪漫風景。パノラマの景色が誘う不思議な懐かしさ。そして、作家のユートピア願望が自由奔放、縦横無尽に展開される解放感。こうした妙味が混然一体となった怪奇・幻想小説の逸品に、丸尾末広が絵を付けたもの。絢爛たるイラストをちりばめてゆく漫画の趣が、原作の雰囲気とよく溶け合っていて、魅せられましたねぇ。
とりわけ、本書の中盤から後半にかけて。桃源郷への男の夢と憧れが、パノラマ島の人工楽園の色々な風物として結実していく、その辺りの絵的な表現が見事! ガラスのトンネルから眺める海底風景の幻想。中国の仙境の世界にも通じる大渓谷、大階段、大庭園の魔法。まさに、<我々の日常から乖離した別世界が 目も遥かにうち続く>光景の壮大さ、不可思議さ、懐かしさに、わくわくさせられました。
夜空を美しく彩るフィナーレまで、本書の冒頭に掲げられた乱歩の、<現世(うつしよ)は夢 夜の夢こそ真実(まこと)>の言葉が妖しく、豊かに息づいている一冊。
ネイキッド・シティ
ハードコアジャズと呼ばれる異色バンドです。
オーネットコールマン、007のテーマなどさまざまな曲のカバーも入っていて、ジャズファン、ロックファンならず、すべての音楽ファンに聞いて欲しい作品です。
短い曲もあり最初は分かりにくかったけど、どんどん好きになりました!
少女椿
少女が辿りついたのは,怪しく、いかがわしく、得体のしれない世界。いつしかあなたもその世界に惹かれてしまい,甘美なる危うさと狂気に魅了されることでしょう。舞台は見せ物小屋、登場人物は、いかにも怪しい面々。江戸川乱歩や夢野久作のようなエロ・グロ・ナンセンスに満ち満ちており,ガラス張りの現代社会にないロマンがあります。ただし,体に合わない人はすぐに本を閉じましょう!!
切断の異學
このアルバムの中に収録されている「切断ダリア」はプロモをみるのも良し!音楽だけで聴くのも良し!の逸品の1曲!^^/ 「丸尾末広」のインパクトのあるジャケットも魅力であるが「合唱部」こと「月影美歌と異鏡朱音」の二人のコーラスは絶品!バックコーラスも楽器の一部であることを再認識させられました^^;自他ともに認める「色物」ではありますがメンバーのテクニックにも注目!好き嫌いはあるけれど中毒になる可能性は大かも^^; 山本‘洋楽バカ‘圭亮
瓶詰の地獄 (ビームコミックス)
2010年から2012年に月刊コミック・ビーム誌に散発掲載された短編集です。
鬼才丸尾末広氏はデビュー当時から昭和初期の小説やビジュアルの影響が強い美麗・頽廃的作風が印象的でしたが、本作も全てその路線です。
・瓶詰の地獄
丸尾氏には珍しく陽光降り注ぐ南の孤島を舞台としながらダブルイメージの技法を駆使した死の隠喩に圧倒されます。
あからさまに仄めかされている兄妹の秘密もそのものズバリは描かれていません。
しかし実に背徳的です。
・聖アントワーヌの誘惑。
本書内では一番コミカルな短編。
丸尾氏が好きな「聖アントワーヌを題材とした絵画のベスト5」が記載されています。
氏の選からは漏れましたが世田谷美術館蔵の素朴派アンドレ・ボーシャン作の物は実に可愛いので機会が有ればご覧下さい。
・黄金餅
古今亭志ん生の名演で知られるブラック・ユーモア的落語を原作としています。
過去作の「無神経かさねが淵」と同傾向の作品で美しい容貌を持ちながらも因業な登場人物達の描写に丸尾氏の面目躍如たるものが御座います。
・かわいそうな姉
作者オリジナルの昭和初期を舞台とした作品。
薄倖の少女が春をひさぎながらも障害の有る弟の為に健気に生きる様子を高畠華宵に影響を受けた美麗な筆致で描いています。
全く救いの無い結末共々、可哀想さの博覧会的な作品。
後半3篇には華麗ながらも現在の作品では珍しい貧しさから来る人々の殺伐とした様子、簡単に身を売る子供、障害の有る者に対する差別・搾取等、迫真の描写が多く、印象的です。
表紙の絵を見て「かわいそうな姉」を読むとキャラクター・デザインの差に驚くと思います。
シュールレアリスム、ドイツ表現主義、大正ロマン等、古今東西の名画を含む様々な映像作品に対するオマージュや死とエロティシズム双方が強くが感じられる唯一無比の作風です。
氏のファンの方、強烈なビジュアル・イメージがお好きな方には大いにお薦めです。