私たちが普段,あまり意識してはいないが,漠然と抱いていた他者との関係・環境・コミュニケーションの問題などを非常にうまく整理してあると思います.
なかなか説明するのが難しい概念を,難解な言葉や説明を用いずに丁寧に詳述されています.
普段,「漠然と抱いている」という点では,さほど珍しい視点ではないのかもしれないとは感じてしまいました.
しかしながら,平野氏が「分人」という,人々が漠然と認識しているが,新しい概念を用いることによって,自分の心の動き,人の成長,個性,他者との関係,道徳,恋愛,死などを,これ以上ないくらいうまく説明されているのには非常に驚かされ,どの内容にもひどく納得させられてしまいます.
こう書くと,非常に硬い本のように思われるかもしれませんが,特に前半部では,平野氏自身の経験談に裏打ちされて分人の概念を丁寧に説明されているので,平野啓一郎ファンならずとも,とても楽しめます.
エピソードが面白いです.
また,随所で,平野氏の小説の解説と共に,分人や個人の関係やその小説で何を主張したかったのかを説明されているので,平野ファンにはもったいないくらい嬉しい本です.
ただ,私自身,「本当の自分」があると考えたことはほとんどないですし,本当の自分探しをした経験もありません.
また,キャラや
仮面を被って他人と接しているな,と感じることも少ないので,ピンとこない部分もあるにはあります.
しかしながら,新しいモデルを提示して,様々な現象をそのモデルに則って本当にうまく説明されているので,思わず合点がいってしてしまう箇所はふんだんにあります.
そういった点からも,ものすごく楽しめましたし,面白かったです.
本書は、『日蝕』で
芥川賞を受賞し、
最近は読書論など幅広い活動を行う著者による長編小説。
舞台は人類が
火星に降り立った近未来。
東京大震災で、息子を失った宇宙飛行士を主人公に、
宇宙船クルーに沸き起こったスキャンダル
東アフリカで繰り広げられる戦闘
猛威を振るうなぞのウィルス
そして、白熱するアメリカ大統領選挙―
一見、無関係に思われるそれぞれの事件が
やがて大きなうねりとなり、人類の未来を変える様子を描きます。
物語そのものや入念な人物造形は言うまでもなく、
それにも劣らない本書の大きな魅力は、
領土を持たない国家「プラネット」
個人の人格を分割可能なものと考える分人主義
防犯カメラのネットワーク化と防犯率
―など、現代を考える上でもとても示唆に富む思想や世界観。
これらがスリルと躍動感に満ちたストーリーが相まって
とても読み応えのある作品となっています。
個人的に印象深かったのは、
現実さながら、両候補者による激しい討論や
入念なミーティングがなされる大統領選挙の様子。
選挙終盤には、とても象徴的なある人物まで登場し
思わずニヤリとしてしまいました
夫婦愛、国際政治、社会問題、そして人類の未来―
さまざまなテーマを含みつつも
エンターテイメント性を失わない本作。
著者のファンはもちろんのこと、
一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です