秦
始皇帝の
兵馬俑の話題、とくに発掘史をディープに読める本です。
兵馬俑は映画にもなりましたし、
兵馬俑そのもののカラー図録などは、すでに他で多く出版されています。観光旅行のチラシでも有名です。どのようにして発見され、どのようにして発掘されたのか? 原著発行年1993年現在までの発掘
調査の結果どんなことがわかったのか? 岳南はジャーナリストなので、読者をひきつけるようにいろいろ工夫しているようです。墓室の未盗掘説はこのころからでてたようですね。
なかでも興味深いのが、第9章「問題と展望」で、「発掘技術の粗雑」「保存技術の未熟」「文物の盗掘と盗難」など中国考古学界の問題点が論じられています。定陵出土の萬暦時代の絹織物がぜんぶダメになったということははじめて知りました。また、第八章の銅車馬をめぐって農民と対立、解放軍まで巻き込む醜い騒ぎになった事情は現在の中国の一端を表しています。
訳文は読みやすくありがたいのですが、「監訳」となっていて「日中友好」という単語もあり、訳者による取捨選択があるような感じがします。
本書は『
始皇帝の地下帝国』の出版後に様々な
始皇帝陵の探査の成果が出て、それを踏まえて
書き直されたものである。四章からなるが、章毎の連続性は低く、
始皇帝・
始皇帝陵に関する
四つの話と見るべきである。
第一章「新発見相次ぐ
始皇帝陵園」では、2004年までに分かる限りの
始皇帝陵の資料が提示さ
れる。ここでは現在の
始皇帝陵の有様も著者の主観で述べられ、恰も遺跡巡りの観光手記である。
第二章「
始皇帝の死と二世皇帝の実像」では、絶対権力者であった
始皇帝と、ただ継がされた
だけの二世皇帝という従来史観では無く、古墳から出てきた文書や
始皇帝の顕彰刻石と史記を
比べることによって、史記の背景や
始皇帝よりも寧ろ積極的な面もあった二世皇帝の自発的行
動を浮き彫りにするのに成功している。
第三章「秦王陵の伝統をさかのぼる」では、
始皇帝陵が作られるに当たってその手本或いは雛
形となった、戦国七雄の秦の王陵があり、源流であるそれらを訪ねることで、
始皇帝陵のポジ
ションを見ようとしている。ここも著者の遺跡巡りの手記と言える。
第四章「
始皇帝陵の地下世界と地上の帝国」では、史記に水銀の川が流れると記載され、20世
紀にそれが実証された
始皇帝陵の地下宮殿、その構造や意図について言及される。そこには当
然ながら、当時の思想や地上での秦帝国が反映されている。特に立ち姿が安定するように下半
身が太めに作られ尚且つ表情豊かな兵士の俑は、日本でも知られるようになった。その
兵馬俑が何を意味するのかを論じている。
詳細な資料と様々な吟味からなるが、それでも
始皇帝や
始皇帝陵については不明な点が多い。
本書を読むことによって、歴史の奥深さを見せられ、史記に描かれた世界をそのまま信じる恐
さを教えられた気がする。