『ソフィの世界』や『数学ガール』など、他の学問では小説仕立てで入門書を書く前例がありましたが、言語学においては初の事例になります。
男子高校生が放課後に女子部員2人だけの廃部寸前の言語学部に入って、お菓子とピーチティーをお供にハーレムな言語学雑談をする話です。
部の存続を図るための部員集め、嫌がらせを行う謎の怪人、恋愛の行方など、興味を持続させるための展開があり、専門外の人には興味がわきにくい言語学の話を最後まで読ませる工夫もしてあります。
雑談で行われる言語学の内容についてですが、中学生や高校生にも理解できる程度の本当に基本的な部分ばかりであり、かなり手加減された内容になっていますので、すでに一通り言語学を学習した人にとっては物足りなさを感じるかもしれません。
しかし、いままで言語学に全く縁がなく、語学と言語学の違いもはっきりしなかった人々には適度な難易度といえるでしょう。
昨今の新規人工言語作者の多くは中学生から高校生ですので、人工言語を作るにおける最低限度の言語学の知識の習得には有用と思われます。
ただ、著者自身も言っていますが、「今まで高すぎた言語学の
はじめの一歩を助けるためのはじめの0.5歩としての入門書」ですので、十分な言語学の知識を得るためには、巻末の参考文献を読むことをお勧めします。
なお、著者が世界でも類を見ない大規模アプリオリ架空言語であるアルカの作者であるということで、人工言語のことやアルカについての記述を期待して買う方もいらっしゃると思います。
期待を裏切らず、本書にも人工言語とアルカについての記述はありますが、その言及された部分は終盤と後書きに少しだけです。
人工言語作成ノウハウや人工言語史、人工言語アルカそのものについての知識は、前作『人工言語学・アルカ』を参照した方が良いかと思います。
なお、この本はすでに完売し、2012年7月20日現在、再版の予定はないため、人工言語研究会で公開されている無料の電子書籍版を参照ください。
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