司馬がちょうど還暦のころ執筆した作品で、1982年6月から1983年12月まで1年半に渡って読売新聞に連載された。
主人公は、
北条早雲(1432-1519)。戦国時代初期に、裸一貫から小田原北条氏を興した人物である。
北条早雲は40半ばまで世間に知られることなく無為の日々を過ごした。そのころの名乗りを伊勢新九郎という。司馬は世に出てからの
北条早雲ではなく、伊勢新九郎を書きたかった、という。どことなく『国盗り物語』の松波庄九郎(=斉藤道三)を彷彿とさせるなぁ、と思っていたら、日本史辞典の斉藤道三の項目に「
北条早雲とならび、成り上がり戦国大名の典型とされる」とあった。司馬は戦国や幕末の騒乱の時代を好んで描いたが、その理由を、そういう時代にこそ男の典型が見られるからだ、と語ったことがある。なるほど。新九郎と庄九郎、二人とも司馬が好きなタイプの「男の典型」のようだ。
本作は司馬の小説としてはラス前、最後から2番目の作品である。この後『韃靼
疾風録』を書いて小説家としての筆を折る。回遊魚が大海を旅してのち生まれた川に戻るが如く、小説家としての旅の終わりに、独立して間もない頃執筆した『国盗り物語』の作品世界に戻ってきた。そうみるのは穿ち過ぎだろうか。
上巻は、伊勢新九郎として、もって生まれた武将としての才能を発揮する場もなく、無為の日々をすごしていた頃を描いている。『国盗り物語』と比べると、さすがに本作のほうが描写が重厚。20年の歳月を感じる。
永井豪作品としておちつきのある、歴史漫画。
独特のインスピレーションを持つ永井豪作品のなかでは、きっと地味目。
その分説得力がある、
北条早雲伝。
戦略眼、戦術眼を鷹の目として表しているのだろうか。応仁の乱から関東制覇までを描く。
歴史的には名君だったとされ、家訓もよくひきあいに出される後北条氏の祖。
独特の政情判断と家臣団による活躍が見物。太田道灌とのエピソードはモデルは秀吉かもしれない。
今でも小田原といえば、早雲。鎌倉と頼朝のようなもの。
美女の裸体像も少なく、超人的な武将も少なめだが、まぎれもなくダイナミックプロの作品。
手天童子、バイオレンスジャックの素材の一つとなっている歴史漫画なのかもしれない。
味のある歴史シリーズの一冊。
ついさっき読み終わりました。あっという間でした。SROシリーズ,軍配者シリーズ等読んできましたが,このシリーズもおもしろい。読んで間違いないです。早雲の人となりの根幹にあるものが形成されていく過程に引き込まれました。次巻は2015年だそうですが,待ちきれません。富樫さん,早く出してください。