ペルソナも最後のほうでびっくりして思わずうなってしまった。言語感覚のずれは人間としてのずれを生みだす。本当に大切なことは母国語でしかいえないのか、
能面をかぶってしまうことで初めて外に露出できる感情(言語)を獲得したのだが、人間は実は
ドイツ人でも感情をおさえている(ディスコミュニケーション)ものだから、本当に感情をだしてもコミュニケーションできない。そんな悲哀。いかにも「小説家」らしい作品で好感が持てる。海外文学みたいだし。
しかしそれにも増して驚いたのは、表題作の
犬婿入り。お姫様のお尻をぺろぺろ舐める
犬の昔話をモチーフにした幻想小説。神様視点を使っての視点の移動と流れるままの文章が見事にマッチ、シュールさとあいまって巧みな幻想世界を完璧に構築していて、読んでいてとにかくおもしろい、傑作だ。この時代はまだファンタジーでも
芥川賞取れてたんだ、とそのことも発見。
「わたし」「トスカ」「クヌート」の親子3代が主人公の物語。普段はうかがい知ることの出来ない、
ホッキョクグマの目線から描かれているところが非常に新鮮。
ソ連で
サーカスの裏方をしながら自伝を描く「わたし」。人間女性のパートナーと組んで、東
ドイツの
サーカスで活躍する「トスカ」。そして
ベルリン動物園の人気者「クヌート」。物語の舞台である共産圏での暮らしぶりも、とても興味深い作品だった。