この学研M文庫は再版で、私が持っているのはサイマル出版の底本です。
(内容はほぼ同じに見えますが、写真や画像がかなり削られています)
ヒトラーやナチスが、地球空洞論やオカルトに傾注していたのは知られて
いて、その結果としての空飛ぶ円盤開発やら、また、某アニメで一気に
有名になった「ロンギヌスの槍」と、ヒトラーの出会いから、シュタイナー
の黒魔術系の体系に傾注し、ヒトラー自身の兵役から戦後の
ドイツの
危機的状況と併せて、アーリア人優等説に染まっていく様子が実に巧みに
描かれています。
引用文献も多彩ですが、ウィーン時代のクビツェフの証言等、一次資料
も豊富です(筆者のトレヴァー・レブンズク
ロフト自身が、ロンメル暗殺
計画に関与して1941年〜1945年に投獄されていた、という事実も重みを
持ちます)
21世紀最大の怪物、とも呼ばれた人物がいかにしてその非道を為したのか。
その政治の前半期においては(フリッツ・トートの活躍があったとはいえ)
アウトバーンの建設、ハイパーインフレの鎮静化といった実績を挙げた
反面、その背後にはヒトラーを
ドイツの救世主とまで読んだ英国首相、
チェンバレンの関与の存在があり、その再軍備への経緯を止められなかった
こと、また、カール大帝以来の神聖
ローマ帝国、
ドイツ帝国(ヴィル
ヘルム帝)に次ぐ「第三帝国」の建設の思想基盤が、民族主義的背景を
伴って、フランク王国の再建という側面が、ダンケルク撤退戦での対英
姿勢にまで現れていることが読み取れます。
歴史にifを持ちこむのは後付けとはいえ、もし、チャーチルでなくチェン
バレンが第二次大戦期の英国主導者であったならば、ダンケルク戦以降
単独講和もあり得たのではないか? 反ユダヤ主義は汎欧州的風潮であった
ことと併せて考えると、この1冊の示唆するものは重く、ムッソリーニの
ファシズムが分裂前の
ローマ帝国の再建を企図したものとも見られること
も頷けます。ロンギヌスの槍、というギミックに拘泥せずに読み込むと
もっと評価されて良いであろう1冊です。
ドイツという国が、実は都市国家(公国、侯国、王国)の集まりである
ことを実体験(戦時留学)から活写した1冊
追憶のドイツ―ナチス・空襲・日本人技師
ナチスのユダヤ人迫害、東西冷戦期の貴重な資料
ドイツ―傷ついた風景 (
講談社文庫)