今作では、付属の厚い本にマンガを5本も織り交ぜ、マキシマムザ亮君自身が予め注釈するほどに、くどくどと曲について、自分について語りまくっている。
そしてその思いを音楽に乗せてぶちまけまくっている。
これは、音楽と言葉とマンガと企画とを用いた「川北亮」という人間についての解説メディアである。
1曲目「予襲復讐」の「なあ?こうやってバカみたいな14歳のまま死んでいくのもありだろうよ もう誰にも伝わんなくたってかまわねえし もう金にもなんなくたって屁でもねえわ」の語りなんて、小さな少女が擦り切れるような声で思いを吐き出しているかのような切なさが何周もしてアラフォーの亮君から搾り出されているかのごとき哀愁を覚える。
それらについて、オーディエンスが理解するだのしないだのの諸々はその「本」の中でも散々語られているし、あえてどうこう言及するものでもないと感じている。
今回もできあがった曲達は優れているし、ホルモンとしてガッチリ作り込み、みごとな完成に至っている。全体的にザクザクとしたエッジの効いた音作りや、コーラスに重層感のある歌メロも聴き応えがある。
これまで以上にミクスチャー具合の強い作りも、抑揚が効いていてこれはこれで
アリだと思うし自分は良い聴後感を得た。
6年かかったが「ぶっ生き返す」でいよいよ亮君のネタも尽き、ここから先は今まで生んだものの繰り返しになるのではとの懸念はしっかり振り払い、面白い切り口もいくつか作り出している。
この1枚から味わえるカッコ良さを素直に評価したい。
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亮君の詩の世界観について多少思う所を。
上記のように全体を通して自分語りが多い今作だが、「アカギ」「絶望ビリー」など、原作のあるものの詩を書かせると彼は爆発的な才能を発揮する。
「うつむき今夜地を食う 仰向け天を食う さあさらけだせ狂気の芽 世の中で研ぐ爪」「ノートに猛毒 煩悩に恐れ抱く 大嘘の妄想にヨダレが絶え間なく 裁き 犯罪統括とほざく 誰が打開策などわかる?」など、原作を知るものはこの言葉の選択の鋭さにグッと心を鷲掴みされることと思う。人から理解されることを望む亮君はなるほど、他人の作品を読み砕き咀嚼し、自分の言葉でアプローチして音楽作品に
仕上げることにかけて凄まじい能力を持っている。対象に対して優れた理解者であるミュージシャンなのだ。
家政婦ロボットを歌った「糞ブレイキン脳ブレイキンリリィー」や、架空の殺人鬼の物語を書いた「ルイジアナボブ」、前向きな地縛霊をテーマにした「シミ」など、ファンタジー色のある彼作の物語ものでもその、寓話を詩に綴り音へ変換する才は輝き「遠く転がる首の繋ぎ目で 電気ショートの音が虚しく響きだす」「斧にこの手預け脳に物申す」「響かせるいずれ隅っこの因縁を全て 狭間 濡れるほどに意味をこぼして伝えた」などの白眉なフレーズを書きまくっている。
今回、その腕は
ドラゴンボールからネタを引っ張ったシングルカットの既存曲「F」でしか振るわれていないので、もっとそういうマンガ世界的な曲を味わいたかったな、という願望は残る。
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「本」は、もしかしたら「日本で最も売れたエロ本」になるかもしれない。