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廃用身 (幻冬舎文庫)
傑作。全てが深く、重くのしかかってくる。
現実を鑑みた善意の治療、それに対するマスコミの対応、周囲の人間の反応、解ける見込みのない誤解が渦を巻く。完璧に思われたインフォームドコンセントが(現実にありがちな形で)崩れ、そこから始まる主人公の自己分析と、外科医としての本質の自壊と、自殺。
若干説明口調で純文学的には秀逸とはいえないかもしれないが、論理的で読みやすく、かつ実際の臨床現場で起こり得そうな設定、登場人物の設定が余すところなく全体の構成にいい影響を及ぼしているのは見事。

 

破裂〈上〉 (幻冬舎文庫)
前の「無痛」より、より現実的で、こんな発想の官僚がいたら実際に法律作ってやりそうな気がする。

その発想は「安楽死を積極的に推進する…」というものなのだが、単に楽に殺すのではなく、一度心臓を強くして、普段と同じ生活が出来るようになって、コロッと心臓麻痺で死んでしまう方法なのだ。しかもこの発展型もあり、麻薬を打つことで幸せな幻想を見ながらそのまま死んでいく…というような事も考えられている。

世の中の老人にアンケートとって、「生きるのが辛いので殺してほしい」という声がある程度あるという実データをもとにこのような施策を進めようとするのだが、その背景には崩壊しそうな健康保険を立て直す…などの問題もからんでいて、とてもフィクションとは思えない。

この二つのテーマだけでも面白いのだが、医療ジャーナリズム、薬物問題、医療ミス問題、官僚と議員の微妙な力関係…などもからんできて、話が膨らみのきらいはあるが、一気に読ませてしまう筆力はさすが。しかも途中途中に色っぽい話もあり、その恋はなんと思わぬ方向に…。

ただ真剣に「長生きする」事が医療の目的なのか?という事をマジに考えさせられた。意識がなく点滴などで生かされている人の人間としての尊厳はどうなっているのだろう。ただまったく無反応でも本人の意識ははっきりはしていて、何とか蘇りたい…と悶々としているような人も実際にいるのかもしれないし。

この人のあまりにもリアルな医療現場の描写が、この本のノンフィクションとフィクションの境目をあいまいにしている。
そのあいまいさが私の恐怖心を思いっきり増幅させてしまう。

 

日本人の死に時 を読んで



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