この本を原作としたマンガ「
シグルイ」を読んだ知人から「まず原作を読むべき」と薦められて読んでみた。
歴史物は普段手に取らない、まして剣豪物は池波正太郎の「剣客商売」ぐらいしか読んだことがないが、語り口そのものは現代文である本書では、人名が古くさい程度の違和感しかない。
十一番それぞれの試合について、登場人物たちの背景をたどり最後の勝負の一瞬に収斂していくストーリーは非常にスリリングで(映画で言うところの「グランドホテル形式」である)、このジャンルを見直した次第である。
違和感を感じにくい別の理由を敢えて言えば、名だたる剣豪たちが女色や出世の欲に惑う点にあるかと思う。このあたりは修行不足というか、剣の道一筋に没頭してきた世間を知らない人間の弱さであろうか。そして当然のごとく、この欲を断ち切った者が試合では勝利を収めるのである。この俗物的葛藤とも言える描写が次々と登場する(非現実的と思える)必殺剣とうまくバランスして、リ
アリティーを与えているように思え、楽しめた。
「残酷小説」ともよばれる、凄惨な時代劇を得意とする南條範夫による短編集です。
しかし、この短編集に集められれている話は、表題の「秘剣流れ星」をはじめ、 大体においてハッピーエンドといえる内容になっていて、ハッピーエンドが好きな私としては気分良く読めました。また、表題の「秘剣流れ星」にピンと来た人もいるかもしれませんが、この短編の主人公は、同著者の『駿河城御前試合』に登場した虎眼流の使い手であり、ちょっとした説明にファンならニヤリとさせられます。
ちなみに私が最も気に入ったのは、「
恋風戦国武者」で、これは二人の武士が恋する女性の出した「手柄を立てた方に嫁ぐ」という条件の為に合戦で手柄を争うが、最後にはお互いに自らに誠実であろうとし、手柄を譲りあうという微笑ましい(?)短編です。
軽く読めて読み終わった後も軽い気分になれる、そんないい時代小説です。
「千と千尋の神隠し」より前に
ベルリン映画祭金熊賞を受賞したのが、この作品。左翼系の今井正は「武士道」の不条理さをまさに残酷きわまりなく描いていて、「ラスト・サムライ」とは180度違った角度からのサムライ・オムニバス物語。
切腹連発で全体のトーンはとっても暗いけど、最後に武士道を振り切って恋人の三田佳子と生きていこうと誓う、ワイシャツ・ネクタイ姿の中村錦之助がさわやかなのがせめてもの救い。
主演の錦之助は、前髪の美少年から年老いた老武者まで、戦国武士から昭和のサラリーマンまで、七役を演じ分けてとてつもなくうまい。舌を巻く。
江原真二郎の悪い殿様役は、ハマリすぎて怖い。
加藤嘉はボケた殿様のフリをしていたが、一番油断ならない恐るべき人物だった。