蜷川実花氏を皮切りに大橋愛氏、市橋織江氏など年々高まってくる女流カメラマンによる女性ならではの新しい感受性の提示や「女子カメラ」という新たなブームの台頭
そして、スカイツリーを初めとする都内各地のランドマークのオープンにより、今や書店の一角を占めるまでに注目されている東京散歩
美少女とカメラ、街歩きという、そういった一連の動きに呼応し、巧く纏めあげ作品に昇華した本作を手に出来たのはいささかラッキーな偶然だった
高校の写真部に入部したばかりの女子高生の主人公・夢路歩。彼女のヴィジョンを通して毎回街歩きしながら歴史を思索し、都内の史跡や文化に触れ、人々との交流に触れるエッセイ的な漫画である
実際、4〜5Pで構成される本編の後に「あとがき」や「街歩きマップ」なる作者によるエッセイ、見所や地図を簡易に纏めたものも併せて収録されている。文壇の世界や建物の歴史など造詣も深く、物語を補完するとともに東京散策を一段階奥深いものに
仕上げている
作者はたしか、少年ジャ○プで卓球の漫画を描いていた方だと記憶しているが、画力が格段に向上していて驚いた。淡い色彩で描かれる街並みや行き交う人々、夕焼けの空に飛ぶ鳥の群れなど精緻を極めていて、街の息吹がそのまま伝わってきそうである
東京という街は最近まで「灰色の街」だと思っていた。しかし、本書を読んでいるとそれは単なる自分の浅はかさ、無知さ故であったと気づいた次第。こんなに様々な魅力が詰まっていたなんて
文芸家が在りし日々を過ごした街並みに想いを馳せ、その土地の名物に舌鼓を打ち、ゆったりと散歩しながらシャッターを切る
秀逸な街歩きの指南書でありながら、優しく穏やかなドラマ性を併せ持っている。「今度の休日はカメラを持って出かけようかな」・・・そんな気持ちにさせてくれる作品だ