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砂の女 (新潮文庫)
ざらざらして、ぬめぬめして、ヒリヒリして、しつっこくて、くどくて、不条理で、挙句、喜劇。
ハッピーエンド嫌いな純文学作品の中ではハッピー過ぎるほどのハッピーエンドである。
砂に塗れながらまぐわい合うのは痛くないのだろうか。
まあ、描写がねっとりとして濃厚なのは悪いことではない。
文章総量の半分を読み落としても意味が通じるかもしれない。
この本を読んでから、教員と子持ちの父親が不憫になった。

 

箱男 (新潮文庫)
ダンボール箱を被って身一つで生活する事で、自ら社会から離脱し、「箱男」として生きる男を主人公にして、様々な問題を提起する実験作。

男を覆う「箱」は男に匿名性を与え、男は自分が持つ視姦癖を自由に発揮できるようになる。ダンボール箱に閉じ篭る事で、逆に自由性を獲得するという逆説である。「箱男」は複数人存在するが、世間はそれを認知していないか気付いていない。「人は見たいものだけが見える」と言う皮肉でもある。この作品では"視点"が重要視され、作者が町の風景を撮った写真が数枚挿入されている程である。本作だけでなく、作者が社会を見る眼は細かく、鋭いと思う。主人公と、看護婦、贋箱男(=医者)との間で、覗く側と覗かれる側の立場が何度も逆転する心理模様は面白い。そして、医者が実は軍医の代わりをしている贋医者だった、と言う辺りから読む側には虚実が曖昧になる。冒頭で、敢えて「...今のところ、この記録を書いているのは僕である」と書いてあるが、小説の記述者とは何かと言う問題も提起している。「この記録を書いているのは僕である」と書いているのは誰なのか ? 主人公に成り済ました別人かもしれないし、作品全体が主人公の妄想かもしれない。「今のところ」と言うのがクセものである。

しかし、後半は殆ど支離滅裂の展開で、これを理解せよと言うのは無理がある。とても計算された内容とは思えない。こうした作品に明快な解答を求めるのはヤボだが、限度がある。前半で提起した問題を後半で膨らませるとか、もう少し小説の体を成した形にした方が良かったと思う。

 

こころの声を聴く―河合隼雄対話集 (新潮文庫)
読書歴が浅く、河合隼雄と安部公房が好きで買ったので、対話者の半分くらいは名前も知らない人達でしたが、それぞれの人達の個性がよく出ていて面白かったです。個人的に対話者の作品についてよりも雑談めいた箇所の方が楽しめました。
対話者が作家だけでなくて詩人、学者、医者などなかなかバラエティに富んでる内容かなと思いました。

 

文學ト云フ事09「箱男」(安部公房)



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