ソドムの映画市―あるいは、グレートハンティング的(反)批評闘争 (映画秘宝collection)
コフィン・ジョー、サム・ペキンパー、トビー・フーパー、ジョン・ウォーターズ、ファスビンダー・・・。語り口がホントに絶妙なのだ。
愛情に満ち溢れている。実際に観たい気にさせる評論(?)という点では、絶対、世界一だ!!!
おまけについている宇川直宏との対談も楽しすぎる!!!
ソドムの映画市―あるいは、グレートハンティング的(反)批評闘争 (映画秘宝COLLECTION (2))
中原昌也氏が70年代のゴア系や胡散臭系の主にスプラッター映画についてあの独特の文体で語りつくす異色の映画エッセイです。非常に濃い内容ですが、氏のファンは必読です。
パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版) [DVD]
まだビデオテープだったころにレンタルで観ました。当時10代。とっかかりは当然ながら興味本位でしたが、痛烈なしっぺ返しを食らいました。映画における残酷表現の極北と言っていいでしょう。当時はもう2度と観たくないとも思いました。
作品そのものの分析は、さまざまなコラムで論じられている通りだと思います。ただ、10数年以上たった今、ふと、「また観てみるべきか」と振り返る時があります。そして、何故かこのレビューに書かれた一人ひとりの感じ方をつぶさに読み込む自分がいます。
ひと歳とって、世の中のいろんなことを見聞きしたせいでしょうか。現時点では、観ようと思いつつも再び手を伸ばすに至っていません。とはいえ、生活上のちょっとした起伏を引き金に「何かを確かめてみたい」と期待させてしまう引力が、この作品に潜んでいるような気がします。
自分は一体、何で「映画」を観るのか。観たら確実に嫌な思いをするこの映画に、何を求めているのか。営みの根源的な部分につけ込んでくる作品です。
ソドム百二十日 (河出文庫)
マルキ・ド・サド(1740-1814)の『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』の抄訳と『悲惨物語』及び附録の三編。
サド小説の特徴は、人間性・美徳・宗教的道徳的なるものへの徹底的な軽侮と、異常性・悪徳・涜神への傾倒だ。神や人間性に対する信念を無神論で以て嘲笑し辱める。
「悪徳こそ、・・・、いちばん甘美な逸楽の源泉である・・・。」(「ソドム百二十日」)
「私はね、美徳を失墜せしめてやりたいのだ・・・。」(「悲惨物語」)
登場する男たちは、他者を己の快楽の手段として物化する。彼らにとって、女は男の欲望の赴くままに性的快楽を搾り取られる奴隷でしかなく、独立した人格とは看做さない。
同時に彼らは、快楽以外の、人間的な感情や他者の人格に関わる事柄に対して、一貫して無感動だ。彼らの内面には、他者に対する人間的な共感や優しさというものについての感覚など皆無であり、目の前の奴隷に残酷の限りを尽くす。「人間性(human nature)」などと云うものは道徳家や宗教家が捏造した虚構だとして唾を吐きつけ、「美徳」だの「良心」だのと云った因習的な観念による縛めに対して傲然と反抗する。彼らは、哀れな女たちとは対照的に、一種の英雄として描かれている。
ところで、サドの小説に限らず、男が己の倒錯的性愛に耽るべく他者の人格を支配し道具化する手段というのは、決まってカネと権力と暴力だ。それによって創出される性的饗宴の自閉空間は、確かにおぞましいが、単調だ。どんな異常性愛も、言葉にしてしまえば、それまで。
鬼才ピエル・パオロ・パゾリーニ 3枚セットDVD ~生誕90年特別限定セット~
『ソドムの市』…!
イタリア映画界の鬼才(←まさに、そう呼ぶにふさわしい!!) パゾリーニ最大の問題作にして期せずして遺作となった本作。
このボックスの場合、『ソドムの市』が2003年以来の再発売を果たしたことが最大のトピックだろう。(私自身は待ちきれず、2003年に出た物の中古を¥7000-程で手に入れていた…高っ!)
もともと、2009年にSPOから出た‘ピエル・パオロ・パゾリーニ傑作選’のシリーズとして発売を予告されていたのだが何故か幻となり、結局こういった形でのリリースとなった。 まずは素直に喜びたい。 興味のある方には朗報だと思う。
その、『ソドムの市』の内容といえば…
観客の神経を逆なでする過剰な映像と物語が2時間にわたって続く、まさに地獄風景ともいえるもの。 観客を傷つけるのが目的だったのではと思えるほどだ。 『テオレマ』 や 『豚小屋』で展開されたテーマを発展させより絶望的に展開した…耽美な ‘寓話’ でもある。 パゾリーニは 『私は私の社会参加を、さらに大きな可読性にあわせて再適応させる』 とし、本作を制作したという。 実際パゾリーニは更に次の作品を準備しており『ソドムの市』は第二のデビュー作といった決意で制作されていたようなのだ。(だから遺言などというものではない。極めて前向きで闘争的な映画だったのだ)
…だが、遺作になってしまった。 当然新作は作られず、パゾリーニは本作についてその意図を説明する時間を失った。 そして、衝撃的な自身の最期と衝撃的な映画の印象が混ぜ合わされ、ヘンタイ映画を撮った監督というレッテルを付けられて謎の死とともに葬られてしまった…。
確かに… 本作は、 パゾリーニの‘最高の’傑作とは言えない(と思う)。 過激すぎる。 吐き気を催す人もいるだろう。 とにかく観る前に決意がいる映画には違いない。
(どうしても心配なら …普通の映画なら勧めませんが… 内容について調べてから観ることもアリではないでしょうか。 スプラッター映画などとは ‘種類の違う’ 過激さが2時間続きます)
だが、パゾリーニの決意、ファシズム (あるいは搾取のシステムとしてのブルジョアジー・資本家?) への怒り 、そして拭いきれないいパゾリーニの性的嗜好 (たぶんそう) が渾然一体となってカオスと化した本作はただの変態悪趣味映画とは次元が (格が) 違う。
(ただ、三菱銀行北畠支店に立てこもった‘彼’のように本作を誤読してはならない。ここには注意が必要だ。)
そして、本作 ‘だけ’ を観てパゾリーニをただのヘンタイ監督と片付けないでほしい。 (ここは声を大にして言いたい) 60年代後半の神懸り的傑作群をみてほしい。 このボックスにもそのうちの2本が入っている。 『ソドムの市』 だけが見所ではない。
では、そのうちの一本 『アポロンの地獄』 は…
ギリシャ神話オイディプス王の非常に斬新な映画化。 パゾリーニの愛した荒野の風景が強烈。モロッコの砂漠を舞台にした時に暴力的とすら感じる素朴さをもった原初的て神秘的な物語。 強烈な世界中の民族音楽。 パゾリーニ作品で異常心理(?)が表面に表れた初めての作品でもあり、初のカラー作品でもある。 物語や寓意は (後年の作品に比べれば) 比較的わかりやすく前衛性と娯楽性が一体化した、(一般的な意味での) 最高傑作だと思う。 非常に素晴らしい。
そして『豚小屋』は前作『テオレマ』から流れる “現代のファシズム(≒資本家又はブルジョワ)が人間を食い尽くす” というテーマを扱った‘寓話’。 このテーマは『ソドムの市』で過激な形で完結することになる。 商業的にはもっとも失敗したらしいが、私個人としては本作が一番好きなパゾリーニ映画だ!。 最高に素晴らしい。 人肉食、獣姦 (なんと!ジャン・ピエール・レオがっ!) という過激なテーマを扱うが、映像的にはそれほど過激ではない。 雄大で端正な映像と前衛的物語。 驚くほどの緊張感が胸に刺さる。(テーマを中心に考えると『アポロンの地獄』を外して『テオレマ』を入れた三部作でのボックスのほうがよかったような気がする。 版権の問題もあるけど。)
そういったわけで、このボックス、文句の付けようのない三作が収録されている。 が、問題はこの商品が三枚組みといったところだろう…か。 とくに『ソドムの市』 については既に海外で映像特典入りがブルーレイになっており (←勿論中身は観たことないけど…) このさい、バラ売りでブルーレイを出してほしいというのが正直な私の感想だ。
更に言えば私自身、既に‘ピエル・パオロ・パゾリーニ傑作選’のシリーズで『アポロンの地獄』『豚小屋』のほうは所有しているので… 買うかどうかといえば、微妙なのだった…。
でも、‘HDニューマスター’ というところは気になる。
有名な話だが、もともと『ソドムの市』の撮影されたネガの一部はローマのラボから (フェリーニの『カサノバ』などと共に) 盗難されており、パゾリーニがオスティの海岸で惨殺される要因の一つになった、ともいわれる。 (真相は闇の中だが…。盗難されたフィルムを取り返す為に海岸に出かけたとの話もある) ネガが存在せず、一部に複製から起こしたフィルムが存在するという。 本作の一部の映像が荒れた感じ (基本的には端正な映像の映画ではある) なのはその為だといわれる。
そこで今回の‘ニューマスター’。 どういった画質 (修復) になっているのだろう。 そして、やはり映像特典はないのか。 何時の日かブルーレイは出るのか。 非常に気になる。 購入するか…正直迷う…。
それでも、三作品とも持っていない方には素晴らしいバーゲンプライスであることは間違いない。 一押しは『豚小屋』!!! でも、僅差で最高に最高に素晴らしい『アポロンの地獄』も入り、さらに幻と化していた注目の大問題作『ソドムの市』まで入ってこの価格とは…!。