久石譲 meets “THE GENERAL” キートンの大列車追跡<80周年記念リマスター・ヴァージョン> [DVD] |
フランスのMK2社がデジタルリマスターし04年にDVD発売した『大列車追跡』の日本版。
このバージョンで特筆すべきは、何といっても画質の驚くべき美しさです。キートン映画のフィルムはチャップリンやロイドとちがってきちんと保管されていなかったので損傷や欠落が激しいのですが、このMK2版はまるで製作当時のようなクリアな映像を堪能できます。他のバージョンではつぶれて見えづらかった役者の細かい表情や、遠景の大自然の美しさもはっきり見えます。キートンファンなら、すでに他のソフトを持っていても、MK2版は絶対にコレクションに加えて損はありません。 CDとのセットで定価が少々お高いので、ファンの中には「DVDだけで廉価発売してほしかった」という声もあります。ただでさえキートンを観るのが難しい日本ではそう思うのは当然。ただ、久石譲氏があらたにつけた音楽は非常に良いです。思ったよりクラシックな感じで、しかし久石譲タッチもしっかりある。カール・デイビスの活気あるスコアも好きですが、久石氏のどこかメランコリックな曲調の方がキートンに合っていると私は思いました。本格戦争ドラマとして誠実に(誠実すぎるくらいに)作曲してくれています。 このセットで不満があるとすれば、特典映像の少なさでしょうか。フランス版DVDにはオーソン・ウェルズによる解説など多くの特典がついているらしいのですが、日本版ではリマスター解説とデヴィッド・ロビンソンによる作品紹介のみ。せめて久石譲さんのインタビューなど入れていただきたかった。 しかしキートンの最高傑作をこれだけ美しい映像で楽しめるだけで、ファンは十分満足かもしれません。こうして新たな意匠でよみがえるたび、キートンは新しい生命を得て「今」の時代にすんなりと溶け込んでしまう。時空を超えたキートンの魅力です。 |
キートンの大列車追跡 [DVD] FRT-193 |
公開当時のレベルでは五つ星であろう。古い無声映画であっても作品の価値は不滅で、近現代の傑作とくらべても四つ星の値打ちがある。キートンのコメディには健康な笑いがみちている。押し付けがましいところがない。わざとらしさもない。ただ一生懸命である。
本作品はストーリーはていねいで、アクションとギャグが劇の進行にぴったりで、登場人物はそろって愉快で、機関車もまた生き生きと走るしで、完成度がきわめて高い。定番のギャグもそれなりにたのしく、予想外のギャグに笑わされる場面もしばしば。ところがキートンは笑わない。いつも大真面目だ。 技術の進歩でもって、500円でこんな傑作が見ることができる。おもしろいのはもちろんだが、映画史の流れを知るにも貴重な1枚だ。この映画を見れば、近年の話題作がどの程度の水準にあるか、映画を見る目が変わってくるとおもう。 |
バスター・キートン自伝―わが素晴らしきドタバタ喜劇の世界 (リュミエール叢書) |
ふつう、コメディアンの自伝と聞けば「ピエロの仮面の下にかくされた悲劇的な素顔」てな内容を想像しがち。しかしあくまで気品と誇りを重んじるキートンは、みずからの喜劇人生を低俗な三面記事におとしめたりはしない。僕の仕事はお客さんを笑わせること。映画でも本でもそれは同じさ---そんなキートンのつぶやきが聞こえてきそうである。だから、この本でキートンが語っている数々の(時に荒唐無稽でさえある)逸話が、事実か誇張かなんてどっちでもいい。それらはともかく最高に愉快で豪快で幸福な物語なのだ。
この本が有意義なのは、キートンがコメディ論、映画論を多く語っていること。チャップリンについても非常に鋭い分析をしていたりする。顔面パイ投げの高等技術について講議する場面などはまさに真骨頂。キートンはすぐれたコメディアン兼映画監督であっただけでなく、喜劇巧者、笑いの科学者、コメディ機械の設計者にして技師であり、永遠のアナーキストだったのだ。 ヴォードヴィル時代に父親のジョー・キートンと共にやっていたネタの数々を語っているのもありがたい。しかもキートンは初期の短篇映画の中でその片鱗を記録してくれているのだ。『案山子』、『隣同士』の中でキートン父の華麗なハイキックを見ることができるし、『ゴルフ狂』でキートンがロープの先にボールをくっつけて振り回すのも、舞台でやっていたネタのリサイクルだったことが本を読めばわかるのである。 何よりキートンのシャレっけたっぷりの語り口が最高。翻訳も原文の雰囲気を日本語に可能な限り移植することに成功している。訳者氏の努力にも頭が下がる。再刊を希望します。 |
バスター・キートン100th |
チャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイドと共に喜劇王と称されるバスター・キートン。彼が1920年代に、驚くべきエネルギーを注いで作った短編映画を、ほぼリアルタイムで鑑賞した児玉数夫氏が、愛情を込めて解説しています。その他、サイレント映画末期の長編傑作、トーキー時代の長編なども、詳しく紹介。バスターの素晴らしい経歴を手早く知るには、持って来いの一冊です。 |