若い世代の方は本盤の主役、ビラールの名前をご存じ無い方も多いだろう。何せデビュー作の「1st born second」が
発表されたのが実に9年前の2001年。当時は70年代ソウルに敬意を示した「ネオ・ソウル」という動きがあり次々と傑作
盤が生まれた時期で、彼のデビュー作もその中で語られることが多い。
実は2006年に「Love for sale」という名で2作目の発表予定があった様だが、発表目前に音源がリークされお蔵入りし
た憂き目を見たようだ。全て一から作り直された本作は正に「Revenge」と呼ぶに相応しい大きな変貌を遂げている。作
品題はシカゴ出身のMCコモンがビラールにつけたニックネームとのこと。
注目の音楽家にフライング・ロータスを挙げたり、現R&Bシーンを第三者視している様子が窺えるインタビュー(国内盤
に付随)からは、彼の特定のジャンルに収まるまいという強い意志が伝わるが、本盤に詰められた音楽も、彼の歩んだ
31年間の人生の中で吸収してきたあらゆるジャンルの音楽エッセンスが痛快にごった煮にされている。
電子ファンク「Cake & Eat It Too」冒頭の数小節から、既に前作からの大幅な変化を予感させる。以下、密室性を漂わせ
るくぐもった打ち込み音が思わずフライング・ロータスの最新作を連想させる「Levels」、新鋭
ジャズ・ピアニストのロバ
ート・グラスパーが、硬質な打ち込みビートの上に煌めくピアノフレーズ を散りばめた「Move On」、スクラッチ・ノイズ音
とアコギを軸にした温かい音空間に敢えて珍妙な電子音を大胆にぶつけた風変わりな
バラード「Who Are You」…全曲
一筋縄ではいかない彼独自の美学の見事な結晶である。
艶めかしさと少々の奇抜さを纏った彼の歌唱も前作よりさらに巧みかつ逞しくなり、9年間の空白の中で、他人名義作品
への多数の参加による研鑽の成果が表れている。
彼の現時点での表現欲求がそのまま見事な形となった傑作。音楽自体にアート表現としての前衛色が強く、ビラールの
声質もアクの強いものなので、受け手により賛否がはっきり分かれる作品なのは確か。心配な方はアマ社のドットコム
にて既に試聴できるのでそちらで購入のご検討をお薦めする。私的には年間ベスト候補級の衝撃作なのは間違いない。
ジャケットをパっと見た時はラファエル・サーディクのレトロ風アルバムをみたいなのを予想して買ったんですが…、
蓋を開けてみたらトンでもない怪物が潜んでました。
Bilal の名前自体はこれまでもちらほらと見かけてはいたものの、
ここまで独特の歌い方をする人だとは知らなかった。
茫洋とした美しさを持つファルセットとアクのある地声が複雑に捻じれた感じの、
何とも捉えどころのない響きが聞けば聞くほどクセになる。
楽曲はほとんどがセルフ・プロデュースらしいのだが、
当人の「ん?俺は自分の事をR&Bアーティストだと思ってるのか?」の言葉のとおり、
様々なジャンルを連想させるトラックが入り乱れていて底が知れない。
自分は All Matter みたいな曲が大好物だけど、後半は結構前衛的な雰囲気。
最後の Think It Over でR&Bをちゃんと思い出させてくれる辺りは心憎い演出。
このアルバムは本当に Bilal らしさを詰め込んだものなんでしょう。
この器から次は何が出てくるのかと思うと楽しみで仕方がないです。