舞姫は、森鴎外の代表作で「自伝的」要素もあるので、主人公(大田)を誰が如何に演ずるか、が最大のポイント。篠田監督は、郷ひろみという「意外性」(ミーハー的興味)に賭けたのだろう。その賭けは半分当たったと言えよう。脇役たちが「戯画的」に描かれる中、中心人物達は実に「シリアス」に描かれている。郷も独逸語の特訓を経た様子が窺われるし、懸命の演技が好感を与える。監督は「
写楽」でも葉月里緒菜を起用する等、芸術性と娯楽性を上手くミックスする手腕に長けている。ひろみ郷の新境地開拓と言って良いだろう。
清楚な西欧世界に触れ、近代的な自我に目覚めたエリート青年が、結局は世俗から脱け出せずに挫折していく姿を和文体で描かれています。
太田豊太郎は、秀才で、官命により
ドイツに留学。三年ばかり「自由なる大学の風」潮の中で学び、「真の自我」に目覚めます。
そのころ、貧しい踊り子エリスを救ったことから交際が始まります。留学生仲間の中傷により豊太郎は免官。それを知った母の死が伝えられ、進退きわまった豊太郎はエリスと結ばれます。
エリスの妊娠がわかったころ、相沢の仲立ちにより、天方伯を知り、帰国を勧められます。豊太郎は苦悩しつつも、もとの出世コースにもどります。
狂乱するエリス。豊太郎の胸中は複雑なものがあるでしょう・・・
この作品は確か、私が高校生のころ視聴覚室で映像作品として鑑賞した記憶があります。
主人公豊太郎は「郷ひろみ」が熱演していました。もちろん
ドイツ語で台詞を話されていました。
エリス役の女優については、でっぷりとしていて、「原作のエリスとイメージが違う!」と友達同士で批判し合ったものです。
・・・実在のエリスは‘小柄で美しい人’だったそうですが。
鴎外を追って来日しましたが、親族が説得。船べりでハンカチを振り寂しく帰国されたそうです。
人の幸福の度合は人それぞれ違い、限りがなく、基準をどこに置くのかで、決まり一概に言えない。また罪とはなんなのか?を考えさせられる、内容に感動した。仏経の教えに通じると感じさせられた。
原作は遠い昔に一度読んだことがあるだけで
すっかり忘れてしまいましたが、
現代風にアレンジしたり奇をてらったりすることなく、
「文学」を真正面から映像化した誠実な作品だと思いました。
極端な光の白さと色調の乏しい映像から、
この時代(明治)の灯りの乏しさと
兄弟の暮らしの貧しさが伝わってきます。
特に胸をうたれたのは、夜、真っ黒な高瀬川を
滑るように下っていく小さな船の上で、
罪人(
成宮寛貴)が同心(杉本哲太)に
静かに真相を語るシーン。
闇の中、月あかりに照らされた罪人の顔はおだやかで、
提灯(行灯?)に浮かぶ同心の顔は訝しげに凝っている。
二人の表情といい語り口といい、
バックに流れる切ない音楽といい、
なんともいえず絶妙で見事です。
台詞は原作のままなのかどうかわかりませんが、
やはり「文学」を意識していると思われ、やや朗読っぽい。
それがまたいいのです。
映像なのに、本を読んでいるような、
不思議な感覚にとらわれました。
作品が描き出すテーマは重く、
現代においても簡単に答えの出ない問いを含んでいますが、
さすがというべきか、まったく押しつけがましくありません。
たった30分という短さですが、
つまらない映画を2時間見るより、よほど見応えがありました。