西南戦争に特化して描いた漫画作品。なので「
西郷隆盛の伝記」と重なる描写が多いのは当然。
話自体は
明治維新を達成し、新政府の運営を大久保・岩倉らに任せて鹿児島に引っ込んでいた西郷さんが天皇の勅命で政府役人に引き出されるところから。
矢継ぎ早に改革を断行していく西郷だったが、余りにも性急な改革の実行は各地で反乱の気運を高め、また政府内部でも意見の対立が噴き出す寸前だった。
そして征韓論、当時鎖国をしていた朝鮮を武力で開国させようとする
・
西郷隆盛・江藤新平
・板垣退助
・後藤象二郎
・副島種臣
の5名が、外遊から帰国した大久保・岩倉・木戸らの反対派との争いに敗れて下野した。
郷里の鹿児島に帰った西郷さんは私費を投じて故郷の苦しい生活にいる士族たちを援助し、彼らに生きる場所を与えようと私学校を建てたりした。
その間にも廃刀令や家禄(給料)の打ち切りなど、武士たちの特権が次々と奪われていき、各地で反乱が勃発するも西郷さんは動かなかった。
再三、決起を要請されても西郷さんは断り続ける。
おそらくは西郷さん自身に政府や閣僚に対する不満はあれども、表立って政府に反抗して内乱を起こすような考えはなく、
時節を見計らっていたというのが本心ではなかったか。
新政府は西洋のマネに走り贅沢な生活を送る役人が多く、西郷さんはそれが気に入らなかった。
よって、時期を見計らって政府が窮地に陥った時に西郷さんが乗り込めば、自分を中心に回らざろう得なくなると踏んでいたことだろう。
大久保は清廉潔白であるが、西郷に比して人望が薄く誤解されることも多かった。
木戸は政治力に長けていたが、維新後は病気がちで西南戦争中に西郷の身を案じながら亡くなる。
もう少し時間を待てばそれも或いはというところだった。
だが、西郷の周辺に集まる若者たちの暴走がそれを許さず。西郷さんは彼らに担ぎ出されていく。
西郷さんたち数名の指導者が東京に乗り込んで、対談するという平和的な解決法は「政府は西郷を暗殺しようとしている」という誤解故に受け入れられなかった。
結局は武力で戦うしか道はなくなるが、圧倒的な物量と人員を誇る政府軍に1万3,000人は集まったという西郷軍も蹴散らされていく。
緒戦の「
熊本城攻略」でさえも、名将・加藤清正が築城した城の堅牢さを見誤っていたのだからそれ以降は推して知るべし。
西郷さんにとって不幸なのはかつての主君である「島津斉彬」が既に亡くなっていたことだ。
斉彬が存命ならば西郷さんの挙兵は有り得ない。西郷さんを止められる唯一の人物がいなかったことも彼の不幸だった。
その辺は盟友の大久保やかつて親しくした勝海舟でも不可能な点。
年末ドラマスペシャル「田原坂」も併せて視聴を勧めたいが、この漫画は西郷さんら登場人物の表情が乏しいのが難点。
木戸が西南戦争中に病死したことや、鎮圧後に大久保が不平士族に暗殺された点を省略してしまっている点も宜しくない。
その辺りは「かつての仲間たち」という意味でも当然に入れるべき点だったかと思う。