本書の著者は、東京裁判で東條英機の頭を後ろからひっぱたいた"あの人"です。
序文で『日本歴史は日本の国民的生命の発現である。それ学ぶ事は日本人の真個の面目を知る事である(抜粋)。』と歴史を学ぶ意義を述べます。第一章で『吾らの現に生きつつある国家、吾ら自身を正しく把握するに為には必ず国史を学ばねばならぬ。史学によって覚醒せられたる日本精神が、興国の力となる(抜粋)。』と展開し、『唯だ正しき国史の研究のみが吾らをして日本歴史の尊貴、日本民族の偉大、日本国体の荘厳を体得せしめ、よく一切の非常時に善処するを得せしめるであろう(抜粋)。』と、国史研究消長と国家盛衰の関連とともに、正しい国史研究の重要性を著者は説きます。
切支丹禁制の背景を例にとれば、『基督教が国内の人々の注意を喚起した点は、その教義自体よりも、信徒達の教えに対する熱誠が排他的性格に激化した事であり、事実この排斥精神が仏教教理を非難して神社仏閣の破毀を奨励した。キリシタン大名達も領内の神社仏閣を破毀し洗礼を強いるなどした。
スペイン、
ポルトガルからの基督教伝来が土地の侵掠を伴う事を歴史が物語っており、もはやこれまでの一向宗や法華宗による宗門一揆の騒ぎの比ではないと徳川氏が警戒に至る所以だった(抜粋)。』と、史実の背景が明解に記されています。勿論全編に亘って丁寧な解説が整然と記されています。
歴史が動いた背景を正確、克明に読解した結果が正しい歴史認識に直結し、この蓄積がやがては国家の存亡を左右するという一貫した理念で著されています。本書は昭和14年に出版され、満州事変の記述で終わっています。官憲の弾圧にも拘らず当時ベストセラーになりました。少なくとも断片的史実の羅列に過ぎない今の高校教科書より遥かに頭に入るし、一貫した流れに沿って著す著者の視点にも感服しました。